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若 紫 |
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2005/11/22 20:18 |
山の景色や地方の話に気を紛らす
すこし立ち出でつつ見渡したまへば、高き所にて、ここかしこ、僧坊どもあらはに見おろさるる、ただこのつづら折の下に、同じ小柴なれど、うるはしくし渡して、清げなる屋、廊など続けて、木立いとよしあるは、
「何人の住むにか」
と問ひたまへば、御供なる人、
「これなむ、なにがし僧都の、二年籠もりはべる方にはべるなる」
「心恥づかしき人住むなる所にこそあなれ。あやしうも、あまりやつしけるかな。聞きもこそすれ」などのたまふ。
仙 道 |
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若 紫 |
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2005/11/22 15:58 |
清げなる童などあまた出で來て、閼伽たてまつり、花折りなどするもあらはに見ゆ。
「かしこに、女こそありけれ」 「僧都は、よも、さやうには、据ゑたまはじを」 「いかなる人ならむ」
と口々言ふ。下りて覗くもあり。
「をかしげなる女子ども、若き人、童女なむ見ゆる」と言ふ。
仙 道 |
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若 紫 |
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2005/11/22 15:58 |
仙 道 |
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若 紫 |
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2005/11/22 15:57 |
君は、行ひしたまひつつ、日たくるままに、いかならむと思したるを、
「とかう紛らはさせたまひて、思し入れぬなむ、よくはべる」
仙 道 |
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若 紫 |
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2005/11/22 15:57 |
と聞こゆれば、後への山に立ち出でて、京の方を見たまふ。はるかに霞みわたりて、四方の梢そこはかとなう煙りわたれるほど、
「絵にいとよくも似たるかな。かかる所に住む人、心に思ひ殘すことはあらじかし」とのたまへば、
「これは、いと淺くはべり。人の國などにはべる海、山のありさまなどを御覧ぜさせてはべらば、いかに、御絵いみじうまさらせたまはむ。富士の山、なにがしの嶽」
仙 道 |
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若 紫 |
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2005/11/22 15:56 |
など、語りきこゆるもあり。また西國のおもしろき浦々、磯の上を言ひ続くるもありて、よろづに紛らはしきこゆ。
「近き所には、播磨の明石の浦こそ、なほことにはべれ。何の至り深き隈はなけれど、ただ、海の面を見わたしたるほどなむ、あやしく異所に似ず、ゆほびかなる所にはべる。
仙 道 |
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若 紫 |
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2005/11/22 15:55 |
かの國の前の守、新発意の、女かしづきたる家、いといたしかし。大臣の後にて、出で立ちもすべかりける人の、世のひがものにて、交じらひもせず、近衛の中將を捨てて、申し賜はれりける司なれど、かの國の人にもすこしあなづられて、『何の面目にてか、また都にも帰らむ』と言ひて、頭も下ろしはべりにけるを、すこし奧まりたる山住みもせで、さる海づらに出でゐたる、ひがひがしきやうなれど、げに、かの國のうちに、さも、人の籠もりゐぬべき所々はありながら、深き里は、人離れ心すごく、若き妻子の思ひわびぬべきにより、かつは心をやれる住まひになむはべる。
仙 道 |
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若 紫 |
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2005/11/22 15:52 |
先つころ、まかり下りてはべりしついでに、ありさま見たまへに寄りてはべりしかば、京にてこそ所得ぬやうなりけれ、そこらはるかに、いかめしう占めて造れるさま、さは言へど、國の司にてし置きけることなれば、殘りの齢ゆたかに経べき心構へも、二なくしたりけり。後の世の勤めも、いとよくして、なかなか法師まさりしたる人になむはべりける」と申せば、
「さて、その女は」と、問ひたまふ。
仙 道 |
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若 紫 |
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2005/11/22 15:51 |
仙 道 |
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若 紫 |
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2005/11/22 15:50 |
「けしうはあらず、容貌、心ばせなどはべるなり。代々の國の司など、用意ことにして、さる心ばへ見すなれど、さらにうけひかず。『我が身のかくいたづらに沈めるだにあるを、この人ひとりにこそあれ、思ふさまことなり。もし我に後れてその志とげず、この思ひおきつる宿世違はば、海に入りね』と、常に遺言しおきてはべるなる」
と聞こゆれば、君もをかしと聞きたまふ。人びと、
仙 道 |
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