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テレビ連続ドラマ 『台湾水利の先駆者 八田與一と外代樹夫妻』6
2026/06/02 21:24:24瀏覽20|回應0|推薦0

テレビ連続ドラマ

『台湾水利の先駆者 八田與一と外代樹夫妻』6

【第五回】

1、昼の場面

時:大正六年九月下旬のある日の正午

場所:桃園大圳工事現場付近の工務所

登場人物:水利係長・阿部貞壽、監督係長・白木原民次、調査係長・小原一策、工務係長・川山丈澄

工務所の中で、阿部貞壽が電報を開封して読む。

阿部:(大声で)
「朗報だ、朗報だ!」

民次:(近寄りながら)
「どんな朗報なんだ?」

白木原民次、小原一策、川山丈澄が興味津々で集まってくる。

阿部:
「八田技師長と藏成君が、明日船で基隆港に戻ってくる。それぞれ花嫁と婚約者を連れてな。」

一策:
「これはまさに二重の慶事だな! 俺たちも港へ迎えに行こう。花嫁さんを見てみたいよ。」

民次:
「いいなあ。でも工事現場には誰か残らなきゃならないだろう?」

一策:
「もちろん俺と阿部君が行くんだ。君たちは留守番だな。」

民次:
「そういうことか。」

一策:(得意げに)
「仕方ないさ。君と川山君はここでは重要な幹部だからな。」

民次:
「技師長と信一君の台北の新居は、ちゃんと探しておいたのか? 阿部。」

阿部:
「もちろんだ。西門町の繁華街の路地にある。今度みんなを連れて遊びに行くよ。」

2、昼の場面

時:大正六年九月下旬のある日の午前

場所:大阪商船・逢萊丸号の甲板

登場人物:八田外代樹、八田與一、藏成信一、藏成秀子、阿操、旅客数名

大阪商船逢萊丸号の甲板。傘を差し半袖シャツを着た與一の傍らに、和服姿の外代樹が寄り添っている。その横には、傘を差し半袖シャツを着た信一と和服姿の秀子がいる。女中服姿の阿操はその後ろに立っている。船はすでに基隆港へ近づき、翠緑の山々が視界に入ってくる。

八田外代樹のモノローグ

一八九五年の日清戦争勝利後、台湾は日本へ割譲された。日本政府の統治の下で、台湾の農業開発や工業発展が進められただけでなく、鉄道、港湾、そして桃園大圳水利事業など、さまざまな基盤建設も行われるようになった。

與一:(遠方を指さして)
「君、見てごらん。灯台が見えるあそこが台湾の基隆港だよ。」

外代樹:(目を大きく見開いて眺めながら)
「まあ、なんて綺麗なの!」

與一:
「台湾が日本へ割譲されたのは明治二十八年のことだ。二十二年前、この基隆港は北台湾の小さな漁港に過ぎなかった。でも日本政府が引き継いでから大規模な築港工事を行い、今日のような壮大な港になったんだ。」

外代樹:
「本当に壮観な港ね! こんなに爽やかな青い海港は、金沢では見ることができないわ!」

與一:(笑いながら)
「それはそうだよ。北緯三十七度の金沢に比べて、台北は北緯二十五度だからね。南国情緒があって、温暖で過ごしやすい気候と青い海岸があるんだ。」

外代樹:(少し不思議そうな表情で)
「その緯度って何のこと? そういう専門用語は私には分からないわ。」

與一:(彼女を抱き寄せながら)
「ごめんよ、君。もうすぐ基隆港の埠頭に上陸して、人力車で基隆駅まで行き、それから列車に乗れば、一時間ほどで僕たちの新しい家がある台北の西門町に着くよ。」

外代樹:(嬉しそうに)
「台北って、私たちの金沢市より賑やかなの?」

與一:
「もちろんだよ。台北は総督府や行政機関の所在地だからね。街路計画や公共施設など、あらゆる面で台湾一なんだ。」

傍らでは、藏成信一が身振り手振りで秀子に基隆港を説明している。

信一:
「秀子、見てごらん! 埠頭から上がった斜面に、街並みや家々がずらりと並んでいるよ。」

秀子:
「家がとても密集して建っているみたいね。」

信一:
「そうなんだ。基隆港の唯一の欠点は土地が狭いことだよ。その斜面の向こうが基隆の市街地なんだ。」

秀子:
「じゃあ台北はここから近いのね?」

信一:
「遠くないよ。列車に少し乗れば着くんだ。」

3、昼の場面

時:大正六年九月下旬のある日の午前

場所:基隆港貨物船埠頭

登場人物:八田外代樹、八田與一、藏成信一、藏成秀子、阿操、阿部貞壽、小原一策、旅客数十名

荷物を背負った旅客たちが次々と船室から出てくる。埠頭では阿部貞壽と小原一策が両手を振っている。

阿部:
「八田長官! 八田長官!」

與一と信一もそれに気づき、二人とも阿部貞壽に向かって手を振る。阿部と小原は人混みをかき分けてやって来て、荷物を持ってやる。

與一:
「君たち、どれくらい待っていたんだ?」

阿部:
「着いてからまだ少しですよ。」

與一:
「大圳工事の進捗はどうだ?」

一策:
「工事はわずかに予定を上回っています。狩野総監も現在の状況に大変満足されています。」

與一:
「そうか。みんな、ご苦労だったな。」

阿部:
「当然のことです。技師長、奥様は本当にお綺麗ですね!」

外代樹:
「ありがとうございます。」

阿部:
「技師長、あなたと信一君の家ですが、ご指示どおり探しておきました。二軒並んでいます。」

與一:
「ありがとう、阿部。」

七人は四台の人力車に分乗し、埠頭地区を後にする。

4、昼の場面

時:大正六年九月下旬のある日の午後

場所:台北の街頭、西門町の路地にある與一が借りた木造住宅

登場人物:八田與一、外代樹、藏成信一、秀子、阿操、阿部貞壽、小原一策、林羅満妹(約四十二歳)、林氏(約四十六歳)、街の住民数十名

台北へ到着し、賑やかな市街地を進む。人力車や自転車が絶え間なく行き交い、人通りの多い道路の両側には商店や露店が並んでいる。與一たちは西門町へ到着し、人力車は路地へ曲がり、一列に並ぶ木造住宅の前で止まる。家の周囲は低い生垣に囲まれ、正面には木製の門があり、前庭には二本の桜の木が植えられている。

阿部:
「着きました、技師長。あなたと信一君が宿舎に置いていた荷物は、すべてこちらへ運んでおきました。」

與一:
「阿部、本当にありがとう。」(外代樹を支えて人力車から降ろしながら)
「ここが僕たちの新しい家だよ。」

信一は秀子を支えて車から降ろす。

阿部:
「信一君、あなたと奥さんの家はこちらです。」

阿部は信一と秀子を隣の木造家屋へ案内する。

外代樹:(好奇心と喜びに満ちた表情で)
「なんて素敵なの! ここが私たちの新しい家なのね! 桜の木がある家なんて、金沢の家を思い出すわ。そうでしょう? 阿操、あなたはどう思う?」

阿操:
「ええ、本当に似ていますね、お嬢様。この環境はとても安心できます。」

突然、隣家から中年の男が裸足で勢いよく走り出してくる。上半身は裸で、家の中から「馬鹿野郎!」という怒鳴り声が聞こえてくる。

外代樹が生垣越しに見ると、一人の中年女性が箒の柄を手に持って追いかけて出てくる。その様子を阿部、小原、信一、秀子も目にする。

満妹:(大声で台湾語を使って怒鳴る)
「このくたばり損ない! アヘンでも吸って死んじまえ! 外で野垂れ死にしろ! 二度と帰ってくるんじゃないよ!」

外代樹には何を言っているのか分からない。よく見ると、顔に深い皺の刻まれた黄色い肌の中年女性だった。女性は阿部たちに気づくと、すぐに怒りを収め、礼儀正しい表情に変わる。

満妹:(あまり流暢ではない日本語で)
「まあ、申し訳ありませんね。私はここの大家の妻で、夫の姓は林と申します。近所では満妹と呼ばれています。さっき飛び出していったのは、アヘン好きの主人なんですよ。これからはご近所同士ですので、どうぞよろしくお願いいたします。」

話を聞き終えた外代樹は軽く頭を下げて礼をする。

與一:(小声で)
「わあ、なかなか厳しい奥さんだね。」

外代樹:
「さっき林さんが言っていたアヘンって、何なの?」

與一:
「ああ……話せば長くなるけれど、日本統治以前の台湾では、アヘンを吸って中毒になる人がたくさんいたんだ。一度その悪習に染まると依存症になってしまい、なかなかやめられない。それに体を少しずつ蝕み、慢性中毒を引き起こすんだ。その後、僕たちが統治を始めてから、後藤新平が台湾総督府民政長官だった時にアヘン販売を規制したので、患者は年々減っていった。さっきの大家さんのご主人も、きっとアヘン中毒を断ち切れない人なんだろうね。」

外代樹:(深刻な表情で)
「ああ……林さんのおかみさん、本当にお気の毒だわ。」

秀子と信一が庭へ入っていく。秀子は傍らの大きな木を不思議そうに見上げる。枝には緑色の実が房のように実っている。

秀子:
「この木は何の木なの? 緑色の実がたくさんなっているわ。」

信一:
「マンゴーだよ。台湾ではよく見かける熱帯果樹なんだ。熟すととても甘くて香りがいいんだよ。」

秀子:
「じゃあ採って食べてもいいの?」

満妹:
「もちろんいいですよ! 木に残っているのは採り残しですから。これから住むようになったら、その実は自由に採ってくださいね。」

5、日中の場面

時:大正六年九月下旬のある日の午前

場所:台北西門紅楼市場

登場人物:八田外代樹、秀子、阿操、露天商、買い物客

西門町の公営市場「紅楼」の中で、外代樹、秀子、阿操は買い物かごを提げながら歩き回り、生鮮食品を選んでいる。人々が行き交う中、二人の警察官が巡回している。市場内には豚肉、鶏肉、鴨肉、魚介類、水産物、果物などが並び、さらに目移りするほど多種多様な農産物が並べられている。その多くは外代樹たちがこれまで見たこともないものであり、主従三人は目を見張っていた。

外代樹:「阿操、見てごらんなさい。あの黄色い皮の三日月形の果物がバナナで、あの上にとげとげした葉があって、皮がごつごつしている果物がパイナップルでしょう?」

阿 操:(驚きと感嘆の表情で)
「すごいですね、お嬢様。どうしてそんな果物の名前をご存じなんですか?」

外代樹:(少し誇らしげに)
「台湾へ来る前に、わざわざ図書館へ行って勉強したのよ。ここの特有の野菜や果物、それに農水産物について調べておいたの。どう?私、すごいでしょう?」

阿 操:(手をたたきながら)
「はい!お嬢様は本当に熱心ですね!」

外代樹:(嬉しそうに笑いながら)
「私は主婦ですもの。異郷で暮らしていく以上、まずはこの土地の産物について、ある程度知っておかなくてはね。」

阿 操:「お嬢様は本当に先見の明がありますね。」

秀 子:(売り台を指さして)
「では、この束になっている赤い粒のような果物は何ですか?」

外代樹:「ライチよ。とても甘い果物なの。」

秀 子:「へえ?それならパイナップルを一つと、ライチを一束買って食べてみましょうか?」

外代樹:「いいわね。ご主人、このパイナップルはいくらですか?」

露天商:「一個五十銭です。」

外代樹:「たった五十銭ですか。本当に安いですね。このパイナップルはどうやって選べばいいのですか?」

露天商:「すぐ食べるなら、色がより黄色くて香りの強いものを選ぶんですよ。一つ選んで差し上げます。」

外代樹:「もう一つ選んでくださいな。従妹の分も必要ですから。」

露天商:「かしこまりました。」

露天商は二個選び、外代樹と秀子に渡した。

露天商:「皮をむきましょうか?」

外代樹:「お願いします。」

露天商が皮をむいている間、三人の若い女性は熱心に見つめている。

外代樹:「なるほど、こうやって皮をむくのですね。そんなに難しくはなさそうですね?」

露天商:「簡単ですよ。皮むき包丁は薄くてよく切れるものを使うんです。」

秀 子:「私はライチも一束ください。」

露天商:「このライチはとても甘いですよ。南部から運ばれてきたものです。」

秀 子:「南部から運ばれてきた?」

露天商:「ライチは熱帯果物ですから、北部ではあまり栽培されないんですよ。」

秀 子:「その南部というのは、どこを指しているのですか?」

露天商:(親しげに)
「奥様方は内地から来られたばかりでしょう?」

秀 子:「ええ、来てまだ数日です。」

露天商:「南部というのは、嘉南平原より南の地域を指します。」

秀 子:「嘉南平原?」

外代樹:「台湾島で最も広い平原のことよ。」

秀 子:「ああ、わかりました。」

外代樹:「嘉南平原は米や砂糖の産地で、それにたくさんの熱帯果物も採れるの。」

露天商:「奥様はお詳しいですね。」

外代樹:(得意げに)
「そんなことありません。本で勉強しただけですよ。」

八田外代樹のモノローグ

私と秀子、そして阿操という三人の若い女性は、このようにして南国の風情を少しずつ体験していった。毎日が新しい発見と収穫の連続だった。そして一方で、台湾で働く与一と信一もまた、人生における最も重要な事業――嘉南大圳水利事業へと歩み始めようとしていた。

6、日中の場面

時:大正六年十月上旬のある日の午前

場所:台北総督府土木局長室

登場人物:山形要助局長(約四十五歳)、八田与一

総督府土木局長室にて。

山 形:「まずは美しい花嫁を迎えられたことをお祝いします。最近は公務に追われていますので、日を改めてお宅へお祝いに伺います。」

与 一:「局長、公務を優先なさってください。お時間ができましたら、妻ともどもいつでも歓迎いたします。」

山 形:「与一君、西門町の家は借家でしょう?土木局の優秀な技師長が一般市民と同じ西門町に住むとは。総督府の官舎へ移ってはどうですか?」

与 一:「確かに借家ですが、新居は西門町の商店街や市場に近く、買い物や映画鑑賞にも便利ですし、周囲も賑やかです。妻も退屈せずに済みますから。」

山 形:「八田君は本当に奥様思いの良い夫ですね。」

与 一:(微笑みながら)
「それに、台湾を知るには、あそこで暮らしながら現地の人々と接し、彼らの習慣や考え方を理解し、多くを学ぶのも良いことだと思うのです。」

山 形:「なるほど。台湾を理解するには、やはり現地の人々から学ぶ必要がありますね。」

与 一:「今回内地へ帰省した際、広井勇先生を訪ねました。」

山 形:「広井教授は私の元上司でもあります。お元気でしたか?」

与 一:「先生はとてもお元気でした。現在は官からの依頼を受け、京都の金閣寺修復工事を指揮されています。先生は局長を非常に高く評価しておられました。」

山 形:(興味深そうに)
「教授は私について何と?」

与 一:「先生は、局長は英明果断で、大事業を成し遂げる人物だとおっしゃっていました。」

山 形:「ははは!教授からそのようなお言葉をいただけるとは、私の前半生も無駄ではなかったということですね。」

9、夜の場面

時:大正六年十月上旬のある晩

場所:台北西門町・林家の居間

登場人物:八田与一、外代樹、林信義、林羅満妹

与一と外代樹は自ら林家の居間を訪れる。満妹は茶器を運び出し、信義は与一夫妻を席へ案内する。

与 一:「林さん、私の妻が暴漢に襲われた際、息子さんが間一髪で助けてくださいました。私たち夫婦はそのお礼を申し上げたく、特にご挨拶に参りました。」

満 妹:「八田さん、ご夫人、そんなにお気遣いなさらないでください。息子が帰宅した時に少し話してくれました。ご近所同士助け合うのは当然のことですし、うちの息子も少し擦り傷を負っただけですから。」

与 一:「先ほど妻から伺いましたが、息子さんは今仕事を探しているそうですね。ちょうど私のところで人手が必要なので、もしご本人にその気があれば、私について働いていただけませんか。」

満 妹:(大喜びして)「本当ですか?八田さん、この子に仕事をくださるのですか?」

与 一:「ええ。しばらくは私のそばで、助手として働いてもらうことになりますが。」

満 妹:(嬉しそうに)「それは何よりです。信義、早く八田さんにお礼を言いなさい。」

林信義:(立ち上がり)「ありがとうございます、八田さん。」

与 一:「どういたしまして。近いうちに私は中南部へ出張に行く予定です。君も私について来てもらいます。」

満 妹:「八田さん、そのお仕事はどのようなお仕事なのですか?」

外代樹:「主人は水利技師長で、現在は総督府に勤めております。」

満 妹:(驚き喜んで)「総督府のお役人様だったのですか。どうやらうちの信義は貴人に巡り会えたようですね。」

10、夜の場面

時:大正六年十月上旬の夜

場所:台北西門町・八田家寝室、信一の家の寝室

登場人物:八田与一、外代樹、蔵成信一、秀子

外代樹は与一のために旅行鞄を整理している。

外代樹:(人形を手に取りながら)「この人形を持って行ってください。私を恋しく思った時には取り出して見てくださいね。」

与 一:「この仕事をしていると出張の機会が多いんだ。君にはこれからも理解してもらうことが多くなると思う。」

外代樹:「あなたと一緒になると決めた時から、その覚悟はできていました。あなたは私だけの夫ではなく、職務に忠実な技術者でもありますから。ただ、あまりにも離れて過ごす時間が多くなるのは嫌です。そんな生活ではいつも心配でたまりません。」

与 一:(後ろから抱きしめながら)「ありがとう。君の理解に感謝している。仕事の合間にはできる限り君のそばにいるようにするよ。」

外代樹:「あなたのために長靴を一足縫いました。林さんのお話では、この辺りの山には毒蛇がよく出るそうです。外で働く時は十分に気をつけてください。私はあなたに何かあってほしくありません。」

与 一:「ああ、わかっているよ。」

秀子は信一の旅行鞄を整理している。

秀 子:「お姉さんが、お義兄さんがあなたを連れて中南部へ出張すると言っていました。今回の出張はどれくらいになるのですか?」

信 一:「二、三か月くらいだろうね。」

秀 子:「そんなに長いの?それじゃあ、私たちの結婚披露宴はいつになるの?」

信 一:「出張から帰ってきてからにしよう。いいかな?」

秀 子:「仕方ないわね。体には十分気をつけてくださいね。」

信 一:「もちろんだよ。」

11、昼の場面

時:大正六年十月上旬のある午前

場所:台北西門町・秀子の家の庭

登場人物:外代樹、秀子、満妹、阿操

満妹は竹竿を持ってマンゴーの木に登り、マンゴーを落としている。外代樹、阿操、秀子の三人は大きなカーテンを広げて受け止めている。

阿 操:「左上にも大きな房がありますよ!」

満 妹:「見えてるよ。下でしっかり受け止めてね!」

秀 子:「わあ!二個先に落ちてきた!」

満 妹:「まだあるよ。この枝にも十個以上ついているからね。」

秀 子:「落ちてきた!落ちてきた!」

満 妹:「今見たら右後ろにも一房あるよ!みんな少し右へ移動して!」

外代樹たちはカーテンを右へ動かす。

満 妹:「そう、その位置だよ。」

外代樹:「林さん、一度にそんなにたくさん採らなくてもいいですよ。食べる分だけで十分ですから。」

満 妹:「大丈夫、採り過ぎにはならないよ。熟したものはそのまま食べて、青いものは青マンゴーの漬物にするからね。」

12、昼の場面

時:大正六年十月上旬のある午後

場所:台中庁管内の土道、工務所前、事務所

登場人物:八田与一、阿部貞寿、蔵成信一、林信義、山根長次男(30歳)、瓦歴斯・ベリン(24歳)

黒い公用車が台中庁内を走っている。舗装されていない道路のため、時折砂地に入り込み、車輪が砂に埋まる。道中では水牛を引く農民の姿も見える。総督府土木局の技師・阿部貞寿が運転し、その隣には八田与一、後部座席には蔵成信一と林信義が座っている。

車が台中庁土木課工務所に到着すると、所長の山根長次男が一行を迎え、事務所の応接室へ案内する。

山 根:「昨日、山形局長から電話がありましてね。皆さんを連れて大甲渓の調査へ向かうよう指示を受けました。」

与 一:「私たちの行程まで、局長が事前に手配してくださっていたとは驚きです。」

山 根:「八田技師長、大甲渓上流の調査は相当危険ですよ。あの山地にはタイヤル族のセデック人が住んでおり、一部は帰順しています。この青年技師は瓦歴斯・ベリンといって、タイヤル族セデック群の出身です。高砂族のいくつかの言語に通じており、山地事情にも詳しい。機転も利きますので、案内兼通訳として同行させます。」

ベリン:「はい、所長。」

山 根:「それから東勢街警察分署長の豪田忠雄にも連絡済みです。巡査たちを率いて、道中の警護に当たらせます。」

与 一:「桃園大圳の調査の時も、私と阿部、信一は山中でかなり長く過ごしました。そういう環境には慣れています。」

山 根:「技師長、北台湾の山地と中部の険しい山脈を同じに考えてはいけませんよ。それに山には首狩りを行う生蕃だけでなく、毒蛇や黒熊も出没します。危険だらけですから、決して油断なさらぬよう。」

阿 部:(首筋に手を当て驚いて)「えっ?首狩りの生蕃ですって?それに毒蛇まで?本当なんですか?」

山 根:(笑いながら)「ええ。本当ですよ。阿部さんは台湾に来てまだ日が浅いからご存じないかもしれませんが、台湾の山岳地帯には様々な毒蛇がいます。その中でも百歩蛇という蛇は有名で、噛まれると毒の回りが非常に早い。“百歩以内に必ず死ぬ”とも言われるほどです。その毒性の強さから、深山に暮らす高砂族でさえ恐れているのですよ。」

阿 部:「なんて恐ろしい場所なんだ……。」

山 根:「調査は深い山奥へ入るので危険は多いですが、事前準備を十分に行い、危険に遭遇した際も冷静に対処すれば、多くの場合は無事に戻れます。」

与 一:「山根所長のおっしゃる通りです。慎重に行動すれば、大きな事故は避けられるでしょう。」

13、昼の場面

時:大正六年十月上旬のある午後

場所:台北西門町・秀子の家の庭

登場人物:外代樹、秀子、満妹、阿操

秀子の家の庭で、満妹(林夫人)が外代樹と秀子に青マンゴーの漬け方を教えている。

満 妹:「まだ熟していない青マンゴーは酸味と渋味が強いの。皮をむいて薄切りにし、黒糖で漬け込むのよ。一、二時間ほどで甘みが染み込んで食べられるようになる。甘酸っぱくて歯ごたえも良くて、とても美味しいんだから。ガラス瓶で保存すると、十日から半月ほど発酵して、汁から芳醇なお酒の香りがしてくるのよ。」

秀 子:「そのマンゴー酒を飲んだら酔うんですか?」

満 妹:「私の経験では、たくさん飲めばやっぱり酔うわね。でも口当たりが良いから、つい飲み過ぎてしまうのよ。」

秀 子:「桃や李でお酒を造ることは知っていましたけど、マンゴーでも造れるなんて聞いたことがありませんでした。」

満 妹:「台湾人が一番よく飲むのはもち米で造る米酒よ。料理にもよく使うし、中には米酒が主役になる料理もあるわ。例えば焼酒鶏とかね。」

外代樹:「焼酒鶏ですか?本で読んだことがあります。産後の女性に食べさせる料理だと。」

満 妹:「ええ。でも台湾では冬になると普通に焼酒鶏を食べるの。滋養強壮や寒さ対策のためにね。」

外代樹:「でも台湾の冬は内地ほど寒くありませんよね。特に私たちの北陸地方は冬になると雨や雪が多いですし。」

満 妹:「それは台湾人特有の食習慣なのよ。冬には栄養のあるものを食べて体を養い、翌年の仕事に備えて体力を維持するという考え方なの。」

外代樹:「なるほど。」

満 妹:「冬の滋養だけじゃなくて、家族が病気や怪我をした時、手術の後で体が弱っている時にも、滋養食を煮込んで食べさせるのよ。回復を早めるためにね。」

秀 子:「その習慣は内地にもあります。林さんは漬物作りだけでなく、台湾料理にもとても詳しいんですね。」

満 妹:「そうよ。私は客家人で、主人は福佬人だから、客家料理も台湾料理も作れるの。機会があれば少しずつ教えてあげるわ。」

外代樹:「後駅のあたりに夜市があって、いろいろな地元の食べ物を売っていると聞きました。今夜、林さんに案内していただいて、見聞を広めながら美味しいものを食べてみたいです。」

満 妹:「いいわよ。夜市は台湾独特の地域文化だから、ぜひ一度見ておくべきだわ。」

14、日中の場面

時:大正六年十月上旬のある午前

場所:台中庁東勢街警察分署長室

登場人物:豪田忠雄署長(35歳)、山根長次男、八田与一、阿部貞寿、蔵成信一、林信義、瓦歴斯・ベリン

一行は山根所長の案内で二台の公用車に分乗し、東勢街に到着する。分署長室で豪田署長の説明を受ける。

豪 田:「今回の行程は山岳地帯の奥深くへ入り、大甲渓上流まで向かいます。道中はすべて山道か獣道です。山中の気候は瞬く間に変化し、落石だけでなく、毒蛇や黒熊、イノシシ、さらには生蕃の襲撃に遭うこともあります。私は部下の巡査たちを率いて、皆さんを道中護衛いたします。」

阿部貞寿はこれを聞き、信一に小声で話しかける。

阿 部:「こんなに危険な調査だと知っていたら、桃園大圳の工事現場に残っていた方がよかったよ。」

信 一:(小声で)「技師長に聞かれないように気をつけてください。でないと機嫌を損ねますよ。」

与 一:「豪田署長、お手数をおかけします。」

豪 田:「技師長、皆さんは任務遂行のため危険を冒されるのです。皆さんをできる限り安全に守るのが私の職務です。ひとつ申し上げておきますが、山中では絶対に単独行動をしてはいけません。また、隊列から離れることも禁物です。危険な目に遭う恐れがありますから。」

与 一:「皆さん、署長の注意をしっかり聞きましたか?」

一同声をそろえて答える。

一 同:「はい、聞きました。」

豪 田:「今夜は夕食を済ませたら早めに休み、十分に英気を養ってください。明日の夜明けとともに出発します。」

一同声をそろえて答える。

一 同:「はい!」

15、日中の場面

時:大正六年十月上旬のある午後

場所:台北・後駅夜市

登場人物:外代樹、秀子、満妹、阿操

満妹は外代樹、秀子、阿操を連れて後駅の夜市を見て回る。

秀 子:「この夜市は屋台もお店もあって、食べ物や日用品、遊び道具まで、本当にいろいろなものがありますね。」

満 妹:「夜市は台湾の都市に暮らす人々にとって欠かせない存在なのよ。仕事が終わると、人々は自然と夜市へ集まってくるの。品揃えも豊富で値段も手頃だから、あちこちから人が集まるのよ。」

外代樹:「ここの市場は毎日こんなに遅くまで開いているのですか?」

満 妹:「夜が明けるまで続くわよ。」

秀 子:「夜明けまでですって?信じられません!内地では見たことがありません。今夜は本当に目を開かされました。」

満 妹:「ここには美味しい軽食やおやつがたくさんあるの。例えば蚵仔煎、臭豆腐、潤餅巻き、それに豚血糕や筒仔米糕など、百種類以上はあるわ。あとでゆっくり味わってみるといいわよ。」

秀 子:「どれも聞いたことのない食べ物ばかりです。今夜は全部味見してみたいです。」

満 妹:「蔵成さん、全部食べようと思ったら何度も通わなければ無理よ。私の経験では四、五種類食べればお腹がいっぱいになるわ。」

外代樹:「それなら一品ずつ一人前だけ買って、みんなで分け合いましょう。そうすればたくさんの種類を食べられます。」

秀 子:「お姉さん、私もそう思います!」

満妹はまず彼女たちを蚵仔煎の屋台へ連れて行く。外代樹と秀子は店主が鉄板で蚵仔煎を焼く様子を、大きな目を輝かせながら見つめている。

外代樹:「この料理、見たところそれほど難しくなさそうですね。」

満 妹:「もともと簡単なのよ。明日教えてあげるわ。」

秀 子:「私も習いたいです。」

満 妹:「いいわよ、いいわよ。明日の朝、市場で材料を買ってきて、お昼に作りましょう。さあ、蚵仔煎ができたわ。食べてみて。」

店主が蚵仔煎を一皿運んでくる。

店 主:「お待たせしました。どうぞごゆっくり。」

16、早朝の場面

時:大正六年十月上旬のある日の早朝

場所:台中庁東勢街警察分署長室

登場人物:豪田忠雄署長、山根長次男、八田与一、阿部貞寿、蔵成信一、林信義、瓦歴斯・ベリン

翌朝早く、ベリンと豪田署長が先導し、四名の熟練した武装巡査が与一たち一行を護衛しながら、大甲渓上流の山岳地帯へ向かう。中部山脈の大部分は未開発の森林地帯であり、高い山々が連なり、木々は鬱蒼と茂っている。昼間であっても大木が陽光を遮り、どこか薄気味悪い。途中、裡冷や松鶴などのタイヤル族集落を通過するが、一行は終始タイヤル族の斥候に密かに尾行されていた。

一行が獣道を進み、ある峠に差しかかると、突然、両側の森から顔に青白い入れ墨を施し、弓矢や山刀を手にした数十人の生蕃が現れ、行く手を阻む。豪田と部下たちは直ちに銃を構えて警戒する。生蕃たちの表情には明らかな敵意が浮かんでいる。案内役のベリンはすぐ前へ進み出て、タイヤル語で彼らと会話する。生蕃たちは半信半疑の様子であったが、巡査たちの持つ銃や刀に視線を向けていた。ベリンが何事かを話すと、ようやく彼らは立ち去った。

与 一:(小声で)「豪田署長、ベリンは彼らに何を話したのでしょうか。」

豪 田:(汗をぬぐいながら)「私にもよく分かりません。先ほどの生蕃たちはタイヤル族セデック群のようでした。ベリンも同じタイヤル族の出身ですから、おそらく同族同士の挨拶だったのでしょう。」

阿部と信一の顔には恐怖の色が浮かんでいる。顔に入れ墨をした生蕃を見るのは初めてであった。

阿 部:「危なかったなあ!このまま山奥で命を落とすのかと思ったよ。」

与 一:(笑いながら首を振る)「阿部、君は本当に気が小さいな。」

阿 部:「冷や汗をかくほど怖かったのに、笑うなんてひどいですよ。」

17、日中の場面

時:大正六年十月上旬のある午後

場所:台北西門町・外代樹宅の台所と食堂

登場人物:外代樹、秀子、満妹、阿操

四人の女性が外代樹の家の台所に集まり、満妹が材料の準備を教えている。

満 妹:「まず平たいフライパンの表面に油を塗るの。鍋が熱くなったら牡蠣を軽く焼いて、その上から片栗粉の生地を流し込むのよ。それから広がりすぎた生地を中央へ寄せるの。」

外代樹:(手帳に速記しながら)「鍋を熱し、まず牡蠣を焼き、それから片栗粉の生地を流し込む。」

満 妹:「次に鍋の端で卵を割り入れて焼くの。黄身を崩してね。牡蠣の生地の底が香ばしく焼けて少し焦げ目がついたら、それを持ち上げて半熟の卵の上へひっくり返すの。」

外代樹:「鍋の端で卵を焼き、黄身を崩す。牡蠣の生地の底が香ばしく焼けたら持ち上げて半熟卵の上へ返す。」

満 妹:「それから鍋の端に油を少し足して青菜を炒めるの。その上に卵と牡蠣の生地を返して乗せれば完成。上から順に卵、牡蠣の生地、青菜という重なりになるわ。青菜は春菊が一番いいけれど、白菜や空心菜でも大丈夫。最後に甘辛ソースとニンニク入り醤油だれをかければ出来上がり。」

外代樹:「鍋の端で青菜を炒める。春菊が最適、白菜や空心菜でも可。卵と牡蠣の生地を返して青菜の上に乗せる。上から順に卵、牡蠣の生地、青菜。」

秀 子:「わあ!お姉さん、記憶力がすごいですね。速記も本当に速いです!」

外代樹:(笑いながら)「これは学校で授業中にノートを取る訓練をしていたおかげよ。」

秀 子:「私は一度見ただけではまだ覚えきれません。」

外代樹:「大丈夫よ。まず阿操姉さんに教えるから、その後であなたに教えてもらえばいいわ。」

阿 操:「お嬢様、まさかこんなに早く料理を覚えられるとは思いませんでした。」

外代樹:「阿操姉さん、これまではいつもあなたが料理をしていたでしょう。私が台所へ入ってあなたの見せ場を奪うわけにはいかなかったのよ。」

18、夜の場面

時:大正六年十月上旬のある夜

場所:台中庁・明治温泉(谷関)付近の河岸段丘

登場人物:豪田忠雄、山根長次男、八田与一、阿部貞寿、蔵成信一、林信義、瓦歴斯・ベリン、豪田配下の巡査四名

その夜、与一たちは山中で火を起こして調理することはせず、満月の月明かりの下、大きな岩を囲んで腰を下ろし、持参した握り飯と乾パンを夕食として食べていた。

阿 部:「豪田署長、どうして火を焚かないのですか?」

豪 田:「火を焚けば生蕃にこちらの居場所を知られてしまいます。それは非常に危険なのです。今でも日本統治に反抗している部落は少なくありません。特に山岳地帯の生蕃は、他人が勝手に自分たちの領域へ入り込むことを嫌うのです。」

信 一:「そうですね。鳥居龍蔵博士も以前山地へ入り調査を行い、高砂族を九つの部族に分類したと聞いています。こうした高砂族も総督府が少しずつ教化していかなければなりませんね。」

与 一:「実際のところ、私たちが彼らを侵さない限り、理由もなく襲ってくることは……。」

与一が言い終わる前に、「ヒュッ」という音とともに一本の羽矢が飛来する。林信義が素早く反応し、与一を突き飛ばす。

信 義:「危ない!伏せてください!」

羽矢は大岩に命中し、火花を散らして跳ね返る。与一は平静を装うが、その顔色は青ざめている。

与 一:「危ないところだった。信義、君には借りができたな。」

豪 田:(厳しい声で)「誰だ!誰が我々を襲った!」

豪田はそう言いながら腰の拳銃を抜き、矢の飛んできた方向へ向けてパン!パン!と二発発砲する。その後は静寂が訪れる。

豪 田:(矢を拾い上げて調べながら)「どうやら追い払えたようですね。技師長、本当に運が良かった。この矢には毒が塗られています。命中していたら命はありませんでした。」

与 一:(平静を装いながら)「南無阿弥陀仏。菩薩のお守りに感謝しなければ。」

豪 田:「おや、あなたも念仏を唱えるのですか。親鸞聖人の教えを信仰しているのですか?」

与 一:「ええ。私は金沢の生まれで、あの土地は法華信仰の盛んな地域です。南無阿弥陀仏と唱えると、不思議な力が湧いてくる気がするのです。」

阿 部:(不満そうに)「一体ここはどんな場所なんですか。おにぎりを食べているだけなのに、神出鬼没の生蕃に狙われるなんて。」

山 根:「文句を言っても仕方ありません。来てしまった以上は腹をくくることです。阿部技師。」

与 一:「ここ数日調査を続けてきて分かったのですが、大甲渓の水力資源は非常に豊富です。将来、計画的に堰を築いて発電所を建設できれば、中部開発に必要な電力と水を十分供給できるでしょう。」

信 一:「ただ、山形局長は高雄港の開発を最優先と考えていますから、大甲渓の水力開発はまだ先になるかもしれませんね。」

与 一:「確かにその通りだ。それはつまり、我々にはまだまだやるべき仕事が山ほど残っているということだな。」

19、日中シーン

時:大正六年十月上旬のある午後

場所:台北西門町・八田家 外代樹の寝室

登場人物:外代樹、阿操

與一と信一は断崖絶壁を通過していた際、蕃人の襲撃に遭う。與一は胸に矢を受けて崖下へ転落し、信一は手を伸ばすが與一をつかむことができない……。夜が更け静まり返る中、外代樹は悪夢から目を覚まし、窓の外の下弦の月を見つめながらぼんやりとしている。隣の部屋からは、阿操が熟睡中にかくいびきが聞こえてくる。

外代樹:(OS
「與一、あなたは今どこにいるの? どうして私はこんな不吉な夢を見たの? あなたは、無事なの?」

20、夕方シーンから夜シーン

時:大正六年十月上旬のある日 夕方から夜

場所:台中庁・明治温泉(谷関) タイヤル族集落

登場人物:豪田忠雄、山根長次男、八田與一、阿部貞壽、藏成信一、林信義、ワリス・ベリン、豪田配下の巡査四名、葛西(族長・70歳)、タイヤル族の長老たち、族人たち

三日目の夕方、與一たち一行は「明治」(「谷関」の旧地名)温泉付近に到着する。この温泉は一九〇七年(明治四十年)に現地のタイヤル族蕃人によって発見されたものである。現地の蕃民たちは焼畑耕作と狩猟採集によって生計を立てていた。

山根:
「ベリン、君が一人で先に部落へ入り、現地の蕃人たちに我々の来意を説明してくれ。我々は集落の入口で待っている。」

ベリン:
「はい!」

ベリンは一人で集落へ向かう。與一たちは大木の下で休憩する。しばらくして、ベリンが部落の族長(mrhu)、長老たち、若者たちを伴って集落の入口へやって来る。ベリンが通訳を務める。

葛西:(タイヤル語)
「皆様、我々の集落をお通りになるとのこと、どうぞ我々のもてなしをお受けください。」

與一:
「族長殿、このたびのご厚情に感謝いたします。我々は公務の途中でございますので、ご迷惑をおかけしますことをお許しください。」

葛西:(タイヤル語)
「ワナン、皆に知らせなさい。今夜は盛大なかがり火の宴を開き、この方々を歓待するのだ。」

ワナン:
「承知しました、族長。すぐに参ります。」

集落の集会所横の広場に大きなかがり火が焚かれる。族長の葛西が族人たちに向けて、今夜の歓迎会の開幕を宣言する。

葛西:(タイヤル語)
「皆様が我々の集落を訪れてくださった。盛大な宴で歓迎しよう。」

集落の少女たちが一列に並び、竹筒に入った粟酒を手にして来賓へ酒を勧める。

阿部:
「この酒、甘酸っぱくて美味しいですね!」

信一:
「この粟酒は後からかなり効くんだ。飲み過ぎると酔うよ。」

ベリン:
「八田長官、後ほど族人たちが我々を踊りに誘います。皆さんも一緒に楽しんでください。彼らは主客ともに心ゆくまで楽しむことこそが客人へのもてなしだと考えているのです。」

與一:
「そういうことなら、我々も主人たちの興をそがないようにしよう。皆で一緒に楽しもうじゃないか。」

太鼓の音が鳴り響き、タイヤル族の人々が来賓たちを歌と踊りへ招く。皆はかがり火を囲み、太鼓のリズムに合わせて踊り始める。

広場では山猪が丸焼きにされ、また族人たちが石板で山猪肉を焼いている。阿部貞壽と藏成信一は、石板焼きの山猪肉、塩漬け生豚肉、竹筒入り粟飯、粟餅を食べるのは初めてである。

阿部:
「おいしいですね! この数日ろくに食べられず、ろくに眠れませんでしたが、今日はようやく思い切りご馳走を味わえますよ!」

信一:
「それなら存分に食べるといいさ。」

阿部:
「彼らの造った粟酒は甘くて、本当に美味しいですね!」

山根:
「阿部技師、少し節制してください。この酒はつい飲み過ぎてしまいますからね。」

與一:
「好きなだけ飲ませてやりましょう。この数日、彼もずいぶん気が滅入っていたようですからね。」

( 創作連載小說 )
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引用
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